「境界戦機」は21世紀版ダグラムか?

アニメ「境界戦機」、毎週楽しみに視聴しましたが、いいところでシリーズ終了。続きは2022年の4月からということで一段落したわけですが、何気なくプラモデルのラインナップをチェックしていて「おや?、これはダグラムの路線を狙っているのか?」と改めて感じました。

「改めて」というのは、実は以前にも「境界戦機」には「太陽の牙ダグラム」との共通点を感じたことがあるからで、その時はアニメ作品における単なる類似であってそれ以上の何かがあるとは感じなかったためスルーしていました。ですが、これも「境界戦機」と「太陽の牙ダグラム」を語る上で避けられない部分でもありますので先に述べておくことにしましょう。

最初に感じた類似点

ロボットものに限らずですが、政治的な意図を持つ戦い(多くの場合は戦争)において主人公が戦う動機は大きく2つに分けられます。一つは、その物語において、その社会を守る側として戦うことを動機とする場合、もう一つはその反対に、社会を変革する側として戦う場合です。

多くの場合、主人公は前者の動機として戦います。それは、社会の変革を謳い、平和な社会を乱す国家なり団体なりに対する防衛のための戦い、という位置づけです。こういった、積極的に行動する悪役に対するカウンターとしての正義の味方というありようは、主人公の王道スタイルと言っていいでしょう。ガンダムはどのシリーズも割とこういうスタイルですね。

その一方で、主体的に社会を変革する側として戦う主人公という物語も存在します。1981年から放映された「太陽の牙ダグラム」はそういった作品の一つで、虐げられている植民星の独立のためにゲリラ活動に身を投じるという話の仕立てになっています。

ところが、こういう構造の話って難しいんですよね。まず、現状の社会がいかに酷く、そんな社会を変えようとする主人公たちの行動が道理にかなっていることを示すために、それなりにえげつない描写をする必要があるので、どうしても暗い感じになってしまいます。そして、主人公が社会を変えるために武力を使って戦うというのは、テロリズム肯定と受け取られかねない危険性があります。

2001年の9.11事件の後、「太陽の牙ダグラム」が再放送されることはないだろう、似たような作品が作られることも、元も子もない言い方をすればあれはテロリストの話だから、といった話をしてくれた人がいました。実際にダグラムを見た人がみなそのような捉え方をするとは思えませんが、そういう捉え方もあるのは確かでしょう。

「境界戦機」に話を戻すと、これは主人公が戸惑いながらもテロリストに参加する話なんですよね。「ダグラム」から「境界戦機」までの間に主人公がテロリストに参加する話がないわけではありませんでしたが(「コードギアス」とか)、かなり異例といえます。そして、アニメの絵柄に似合わず、主人公たちは自分が戦う意味について自問自答し、悩んだりもします。まあ私にとってはそういうのも面白いんですけどね。

プラモデル視点から見える共通点

近年のロボットアニメにおいて、メーカーからロボット以外のアイテムが模型化されるということはまずありません。だって、売れないから。ロボットを運ぶトラックの模型、欲しいですか?って話ですね。ところが、昔は割とあったんです。ガンプラでもモビルスーツやモビルアーマー以外のものも結構模型化されていますが、「太陽の牙ダグラム」においては劇中に出てくる輸送ヘリやトレーラーだけでなく、ジープとか(本当にジープなんですよ)まで模型化されています。

メーカー側としては、ジオラマの背景に使えるだろうから売れるはず、という読みだったのだと思います。当時はまだ、何が売れて何が売れないか、どこまで模型化すれば企業利益を最大化できるか、みたいな予測が未成熟でメーカーが割と色々やらかした時期でもあります。模型雑誌「Model Graphics」では「狂乱の時代」と呼んだりしていますが、本当に狂乱の時代でした。そして、1980年代以降二度と来ないはずの時代でした。

通販サイトで1/72スケールのプラモデルを流し見していた私は、偶然「境界戦機」に出てくる輸送トラックのプラモデルを見つけ、そこで少し興味を持って「境界戦機」のプラモデルのラインナップをチェックしたところ、トラックの他に輸送用(輸送と戦闘の兼用ですが)の航空機のプラモデルもあったので驚きました。近年、Max Factoryが「太陽の牙ダグラム」の模型化を進めるなかでコンバットアーマー(劇中のロボットの総称)だけでなく、ヘリやトレーラーまで模型化してしまうことに軽い驚きを感じていましたが、まだ2種類だけとはいえ新作のアニメでトラックが模型化というのは正直ありえない、誰が買うんだこんなモン、そう思いました。と言いつつ私は買ってしまいました。好きなんですよ、こういうの。トラックだけだと寂しいので仕方なくアメイン(劇中のロボットの総称)のプラモデルも一緒に買いました。

「太陽の牙ダグラム」は、もともと「リアル」をキーワードにしたガンプラブームに乗る形で始まった企画です。リアルさを全面に押し出した設定とジオラマ製作のためのスケール設定、サブメカを含めたプラモデルのシリーズ展開、全てはプラモデルを売るために仕掛けられたものです。これらが功を奏してダグラムのプラモデルの売れ行きは好調、これを受けて「太陽の牙ダグラム」は放映期間が延長され75話にもなる長大なアニメ作品になりました。

この放映延長の経緯に関しては、ダグラムのアニメを見ているだけでは見えてこない部分です。実は、アニメ作品としてのダグラムはプラモデルの売り上げほどには成功といえない部分がありました。当時から言われていたのは、舞台が砂漠と森ばかりで単調、政治色が濃くて地味、(子供には)話がわかりにくい、女っ気がなくて絵としての華やかさがない、などですね。要するに、プラモデルを売る仕掛けに抜かりはなかったものの、アニメ作品としてのわかりやすさ、アニメ作品として売るための仕掛けは割と抜けていました、良く言えばハード、悪く言えば万人受けしにくい作品だったと思います。それでも放送延期されたのは、プラモデルの売上が好調だったからに他なりません。

一方「境界戦機」はどうかというと、番組製作の企画段階からバンダイスピリッツが絡んでいるようで、これは関連商品を売りに来ていると考えて良いでしょう。そのために工業デザイナーを起用し、かっこよさもさることながら嘘のないデザインを押し出しています。つまり、劇中でカッコよく動き回るロボットの動きを模型でも再現できる、という点を重視したデザインにすることで、プラモデルの楽しみを広げようという狙いがあるのでしょう。

また、サブメカも模型化することで、ジオラマなどマニアックなプラモデルの楽しみの選択肢も閉ざさない(正直どこまで積極的にマニア層の取り込みを狙っているかはわからないが)、という意気込みを感じます。

さて、「境界戦機」も「太陽の牙ダグラム」もプラモデルは1/72スケール(ダグラムはこれと1/48スケールのシリーズが展開された)でシリーズ展開されていますが、この点は非常に重要なポイントです。1/72と1/48は、スケールモデルにおける国際標準的なスケールで、同スケールの飛行機やミリタリー関係のアイテムが多数販売されています。そのため、ジオラマを作るときに背景や小物として他のプラモデルが使えるというメリットがあります。これはジオラマ製作に限らず、製作したプラモデルを飾るときにも、他メーカーの同スケールの車両を添えるといった楽しみ方もできるようになります。

今後のプラモデルの展開に期待

プラモデルという切り口で見たとき、「境界戦記」はダグラム的な楽しみ方を意識したプラモデルのシリーズ展開をしているように思えます。それでいて、アニメ作品としての仕掛けも抜け目なく盛り込まれています。今後、本編だけでなくプラモデルシリーズがどのように展開されるのか、楽しみです。

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