少し前、と言ってもだいぶ前だが阪大の大須賀先生達のグループが開発したムカデロボットが話題になった。回転軸に斜め取り付けた柔軟な脚を持つ節を連結しただけのメカが本物のムカデのように、障害物を避けながら徘徊する様子は中々気持ち悪くて楽しい。
知能とはなんぞや?、複雑な思考をする脳を持つ生物だけが知能的なのか?、いや、単純な脳しか持たない、いや、脳すらもなく神経系しか持たない生物だって知能的な振る舞いをするではないか、そのような知能を感じさせる何かの本質は何なのか? そして、ムカデのロボットを通して「知能を感じさせる何かとは、環境との相互作用にあるのだ」と結論づける(本当はもっと前から分かっていたんだろうけど)。そういうの、いいね。
で、しばらくしてから、なんとこのロボットがタミヤの工作キットになって発売されたのだ。当然監修は阪大の大須賀先生である。やるなぁ、タミヤ。つか、誰がこの製品のプロデュースをしたのか気になる。
で、ずっと買おう買おうと気になっていたまま、今まで買うことなく過ごしてきたが、ついにこの間購入してしまった。
中を開けてみると、もうこれプラモデルだよね、これは。

タミヤの工作セットといえば、朴の木のベースにギヤボックスを木ネジでとりつけて組み立てるものだったんだよ、って思っている昭和世代としては一抹の寂しさを感じながらも、木製のベースに部品を固定するスタイルだとこのムカデの実現は難しいのでこれは仕方ないところ。それに、プラモデル形式は工作の難易度が圧倒的に低いので、これはこれで良いのだろう。
プラモデル製作の合間に、ちょこちょこ進めていくとすぐに形になる…わけでもなく。

駆動ユニットは過負荷防止のクラッチ機構などが実装されており中々凝った作りである。モータを進行方向に対して横に置き、ウォームを使って進行方向軸の回転に一度変え、更に進行方向とは直角に配置されている脚ドライブシャフトへはウォームギヤを使って動力を伝達している。駆動ユニットの動力は、進行方向軸からカップリングを介して他のユニットに伝達されるというもので、このカップリングのおかげで各ユニットは簡単に抜き差しができるようになっている。

部品を切り離して、治具を使いながらギヤと部品にシャフトを打ち込み、ユニットのベースとなる部品に通す、みたいな作業の連続。ギヤとシャフトにはいちいちグリスアップする必要がある。説明書にはあまり強調されていないんだが、ギヤの歯面だけでなく、側面にも薄く塗ると摩擦による駆動ロスが減る。グリスアップの必要性は十分わかっているけど、やっぱりグリスをチマチマ塗る過程が一番時間を食う。

こうして見ると、メカっぽくてカッコいい。中身が見えるように透明な樹脂をボディに使うというのもオシャレ。そして、各ユニットを組み立てると胴体完成、ようやく形になった。

完成した胴体のそばに脚だけが並べてあると、脚をむしり取られたムカデみたいに見える。しかし、この場合は逆、これから脚を取り付けるのだ。

ユニットごとに脚は逆位相、前後方向には脚の向きが波打つように変化させる。その波の周期は走破性に影響が出るのだろうか? 出るのだろうな。
実際に動かしてみると、各ユニット間の連結部はフリーに動くだけなのに、何となく左右に蛇行するし、本物のムカデが歩いているように見える。障害物に対して正面からぶつからない限り何となく回避できているし、本当に前方をセンシングして進行方向を変えているように見えなくもない。
そこで、この工作セットに入っている組立て説明書とは別の解説書を読む。生き物の知能はどこから生まれるのだろう?、という問いが表題の一文にはこうある。
全ての生き物は知能をもっているように見えます。なぜでしょうか?例えば猫のように、脳があるからだと考えるのがあたりまえかも知れません。でも地球上にはとても小さい脳しか持っていないのに集団になると賢く行動するアリ、神経系(ある刺激に対してからだが反応する)しかなく、脳はないのに賢く動くクモヒトデ、脳はもちろん神経系ももっていないのに知的に動いているように見えるアメーバや粘菌(土や落ち葉の中にいる小さな生物)など、たくさんの生物がいます、不思議ですね。
私たちは、その動きから、彼らは知能をもっているのではないだろうかと考えますが、どうやら知能は脳で生まれるわけではなさそうです。
タミヤ ムカデロボット工作セット解説より
普通、知能というのは脳に相当する物に起因するものだと思われている。が、いろいろな動物を見る限り、そうではないように思える。では、知能とは何だろうか? 子供向けの工作セットにしては深い問いだと思いませんか?
アメーバや粘菌はよくわからないが、クモヒトデくらいであれば確かに知能をもって能動的に動いているように見えるが、彼らには脳がなく神経系しかない。解説によれば、知能の源泉は、知能を感じさせる全ての生き物が持っている何かでなくてはならない。そして、「身体と環境の相互作用」こそがそれであり、更には「知能の源泉はその生き物の中にあるのではなく、周りの環境側にある」のだと。
この仮説を実証するにはどうするか、いわゆる脳に相当する機能のない、かつ行動が知的に見える機械を作ってみせることで1つの実証例とすることは出来るのではないだろうか? そこで開発されたのがムカデロボットであり、ある程度この目的を果たしたと言えるだろう。
知能とはなにか?、知能の源泉とは生物の側にあるのか、はたまた環境の側にもあるのか、そんな事を考えながらムカデロボットの動きを眺めるのも悪くないと思う。


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