私がよく行く模型屋の棚に、マイクロエース社の1/32オーナーズクラブという車のシリーズが置いてある。箱は新しいが割と昔から見かけたような感じの箱で、箱の横にはマイクロエースではなくアリイのロゴが描かれている。この箱絵がなんとも粋な雰囲気でありながらも側面のデザインがえらく昔っぽくて、比較的低価格(というより、最近の1/32の車のキットの価格が高い)だったこともあり、思わず買ってしまった。ちなみに、この店では、中身を見て確認することはできず、たまに中のパーツ見たさにプラモを買ってしまうこともある。

キットのパーツはあっさりしたもので、しかもシャーシとキャビン、シャーシと荷台がネジ止め。これはえらく古い設計のキットを買ってしまったものだが、逆に子供の頃に作ったプラモデルを思い出しながら作るのも悪くないと思い直した。私の記憶だと、1980年代以降に発売された車のプラモデルで主要部品をネジ止めする設計のものはモーターライズ化されたものを除けば皆無だった、いや、1970年代のスーパーカーブームの頃に発売されたキットでもこういう設計はなかったと思う。トラックのようなラダーブレーム構造の車のプラモデルならあったんだろうか?
今回は、実車にそこまで思い入れがあるわけでもないので、実物がどうだったかについてはあまり考えずキットを作ることそのものを楽しむことにした。そもそも私には三輪トラックを見た記憶があまりなく、小学生になって以降は皆無である。昭和20年代から30年代の風景にノスタルジックを感じることもないのだ。
それでも、それっぽさを出すために5箇所だけは手を入れた
- シャーシと荷台を固定するネジのうち後方のものは使わず、荷台の下に生えているネジ用の支柱を切断。他のネジ固定部分はまだしも、ここは車体を後ろ側から見たときに目立ちすぎる。
- 後輪の泥除けを支えるための支柱を追加。
- ドアのノブを立体的に
- グリルの穴抜きと、それに伴う若干の工作
- ドアミラー(フェンダーミラーかも)をそれっぽくディテールアップ

上の写真のように、荷台とシャーシの間に円柱形の柱がある。これがネジの受けとなる部分。ここだけはかなり目立つので切り落とす。

ネジの受けを切り落としたところで、ラダーフレームの後方にこんな板状の部分はない。しかし、その端面にコの字型の棒材を貼ってやると荷代を取り付けたときにそれっぽくなる。なあに、どうせそんなに見える部分じゃないのでこのくらいで問題なし。

荷台の泥除けのサポートには0.8mmの真鍮線を使い、荷台側はL字の棒、泥除け側には取り付け用のブラケットをそれらしくあしらっている。実物の写真ではよくわからなかったので「多分こんな感じになってるはず」という形にした。泥除けは流石に分厚いので端部だけを薄く削った。

シャーシを裏側から見るとこんな感じ。ラダーフレームの中央にドライブシャフトが走り、デフケースが見えるってくらいのざっくりとした表現。ラダーフレームはかなりいい加減で、後方(写真左側)には板状のビームにカップ状の膨らみがあるが、これがスペアタイヤのホイールという作り。流石にここに手を入れて作り直すのはかなり骨が折れる上に見た目の効果も薄いので、先に述べたように端面にコの字型のプラ棒を貼り付けてそれっぽく見せるにとどめた。

正面のグリルはちゃんとスリット状に穴を開けて内部が見えるようにした。こういう本来空間である部分を再現すると模型としての見栄えがぐっと上がるが、そのままだとキャビンの中まで見えてしまうので、プラ板にてインナーフェンダーを作る。また、ステアリングフォークが後ハメできるように手持ちのポリキャップ部品(コトブキヤかWAVEだったか)を使ってみた。また、ステアリングフォークも、グリルの穴あけで丸見えになるので、実物っぽい形状に削った。写真はノーマル部品に削る部分のアタリをつけるために青ペンで線を書き込んだもの。

ドアミラーは棒状のステーが飛び出ていて、ミラーをネジ止めで固定するスタイル。さぞかし調整が面倒くさかっただろう。キットの部品からミラー部分だけを切り出し、ステーは0.8mm真鍮線、ミラーを固定する部分はネジ止めによる固定部を再現することは諦め、丸棒に0.8mmの穴を開けただけで対応。このスケールならそれもアリ。
ドアノブは、今時の車とはかなり形状が異なり、むしろ今どきの住宅用のドアノブに近い。キットはドアノブがドアにベタッと張り付いているような造形だが、実際はノブはドア面から浮いている。これは伸ばしランナーから削り出して作った。

色を塗るとこんな感じ。古いキットだが塗装するとそれっぽく見えるのがプラモデルの面白いところ。
実車は青系の色で塗られていることが多いが、なんとなくミリタリーな小物と並べても違和感が少なく、なおかつ民間っぽくもあるような色にしたかったのでこんな色にしてみた。塗装は、下地としてアクリジョンベースカラーのグレーを塗り、その上にアクリジョンのミドルストーンで塗装した。あまり主塗装で使ったことのない色だが、今回使ってみてすっかり好きになってしまった。銀色の部分は、水性ホビーカラーのスーパーファインシルバーを初めて使ってみたが、キメが細かくてとてもいい。

前輪部分は実は結構問題が多く、タイヤがフォーク中央からズレた位置に来る、そのため泥除けの位置もフォーク中央からずれた位置に取り付ける必要がある、など。今回はそこは完全に目を瞑ってそのまま組み立てた。窓のクリア部品は一部表面が凸凹していたのでペーパーがけ+コンパウンド磨きでとりあえず平らにした。
ワイパーはキットの部品をそのまま使用していいか悩んだが、実際のワイパーの形状がそれほど複雑でないので、形状を軽く整えただけで取り付けた。一つ工夫したこととしては、ワイパーのゴム部分はつや消しのグレーで塗って材質の差を表現してみた。が効果の程はよくわからない。

後輪の泥除けのサポートステーがあると後輪周りに説得力が出ると思う。ただし、実際にどういう取り付けになっているかは写真からはよくわからなかったのでそれらしくでっち上げたので実車とは違うかも。

車体下部はこんな感じ。非常にあっさりした表現で、今どきどころか1970年代のタミヤ製品とすら比べるのが申し訳なく思えるレベル。が、その一方で「でもまあこんなもんでいいんじゃない?見えないし」とも思えてくるのが不思議。実際、下から覗き込まない限り他のミリタリー模型の脇に置いてもそんなに気にならない。

今どきの、考証と表現の行き届いたキットをサクッと作るのも楽しいが、古いキットを肩ひじ張らずに組むのも楽しい。このキットを組み立てる中「細けぇこたぁいいんだよ、プラモってのはさぁ」と思いながら何度も楽しいと感じた。ただまぁ、肩の力を抜いて組んでも左右対称であるべき部品は左右対称に組めるくらいのキットがいいかなぁ、やっぱり。


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